第213回『「関係性消費」と言うあたらしいシンボル』

▼クワタDOCOMOのCM

 老人閑居してやることと言ったらTVを見ることくらい・・・まさに知の堕落ですが、ま、惚けるよりはいいか、とも・・・。
そんな中、美少女とともに一寸惹かれるのがDOCOMOのスマートフォンのCM。
いろいろありますが、秀逸と独断するのは、クワタとちょっとダサイ新入りと思える外回り女子が出ているCMです。注目するのは製品機能を余り押し出さず、むしろ製品のもつ「意味」性に差別化メッセージの軸足を置いたと思われ所です。スマートフォーンを擬人化したCMは目新しくありませんが、その擬人化を一歩すすめてユーザーの感情移入にまでに踏み込んだところにクリエイティブ力を感じます。
 俄雨を避けての軒下で、寄る辺ない気持ちで彼の女子が、雨のしずくを払いつつ濡れたモバイルを拭い、タッチパネルで所在ない気分を慰めるシーンは、頼りになるいい兄貴とも言えるクワタの飄々とした表情やアクションとがマッチして、いい味を出しています。
 ユーザーとスマートフォンという機器との関係性を理屈なしに説得するこのCMは久しぶりに好感を覚えます。同時に情報機器が情報伝達機能を超えて心理的な脳や情緒の分野に進出してきたこと、「消費社会」はすべてを食い尽くすことになるのかもしれないと言う一抹の不安を覚えます。
そしてふと「ネオテニー」なるコトバを想起した次第です。

▼ネオテニーという仮説

 ネオテニーと聞くと、諸兄の中には「パンツを履いた猿」(栗本慎一郎氏著)を思い出す方もおられると思います。ネオテニーとは「幼形成熟」と訳されていますが、「他の動物に比べてヒトは未熟な状態で生まれてくる。そのためヒトは他の動物に比べ子育ての期間が長くなった。しかし、反面、未熟化(ネオテニ−)によって巨大な脳を手に入れた。このネオテニ−によって最も発達したのが、進化史的にみてもっとも後で生じてきた前頭葉の前頭連合野であった。」と言う生物進化論の仮説です。
このネオテニーによりヒトは道具を求めてきた。手の延長としての工具や筋肉の拡張を期待するクルマを代表とする機械に、さらに大脳の拡張としたメディアやコンピュータに、さらには脳神経の拡張としての情報ネットワークへ、と成熟欲求を拡張してきてきたとも言えます。
 かつてモノ離れがトレンドであった時代、代表的なキャッチコピー「美味しい生活」と言う提案が某百貨店からありましたが、これなど進化の仮説に照らし合わせると、モノを通じての自己確認と皮膚感覚系の充足を暮しのすべてに求めるネオテニ−主導の欲求全開のライフであったかとも思います。

▼「関係性の消費」が始まった・・・?

 そして、いまこうした「生活」づくりは次の段階に向かっている気がします。
それは前頭葉の連合です。猛暑の中での幻想ですが・・・。
このような現象はすでにコンピュータの能力の飛躍的なアップとパワーアップした通信技術が融合したインターネットの時代から予見されていたことかもしれません。現在ではリーダー技術の主流はクラウドでこの予見は現実となりつつあります。
 いま断絶、孤独など社会的な病理が、進行しており、「絆」や「つながり」など関係性が注目されているのは周知の通りです。その結果、ソーシャルメディア市場が形成されています。おそらくその市場はネットワークコミュニティーを形成し、それは当面はある価値意識のもとクラスター化することでしょう。
そしてそこでの消費対象はなんでしょうか?私的には「プライバシー」「関係性」「開放」の交換とそれらの消費ではないか?と思っています。
 ツイッター、FACEBOOKなどはその前触れでしょう。クワタDOCOMOのCMはノスタルジックな温もりの幻想をメディア=情報機器メリットとして約束としています。同工異曲の作品も頻度高く放映されており、アクセス能力ではない機能を価値付けており早晩、共に居る「友人」とスマートフォーンとの生活は「新シンボル」に位置づけられることでしょう。

▼そしてNEXT

 しかし、ここでの課題は、「繋がったその先の満足」です。ネオテニーは、歴史的には何ら法則性がなく自由勝手に拡張対象を設定してきています。どこを目指して拡張していき何をもってヒトの完成を描いているのでしょうか?
またヒトは潜在意識的でかつ恣意的とも言える「ネオテニー」の拡張欲求を制御できるのでしょうか?
 欲求5段階を唱えた彼のマズローは、現在、自己実現の次段階として、「自己超越」の理論を唱えています。これは別の見方で考えると神経と大脳の偏重であり、肉体との離別です。
 極めてSF的ですが、「2001年宇宙の旅」のスーパーコンピューターHALは「知的生命体との融合」を目指し銀河系宇宙に旅立ちました。言って見れば幼児のような「ネオテニー」の、よりすぐれた頭脳に惹かれる行動かもしれません。この宇宙を支配する知的生命体とは何か?著者は明快な答えを残していませんが・・・。

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