▼初鰹型と再発見型
ハングリーマーケティングとは情報を発売前に抑えて生活者の飢餓感を煽り買う気をそそるマーケティングの一手法であることは周知だと思います。
こうした成功例としては村上春樹氏の話題作「1Q84」が挙げられ、また奇妙なねじれ現象ではありますが、酒井法子のCDが、事件後、洛陽の紙価?を上げていることもありましょう。マイケルジャクソンの死亡後の状況も巧まずして生まれた社会的なハングリー現象ともいえます。
1Q84の場合は食通相手に初物を提供する方法で、生活催事に則った、いわば江戸っ子の初鰹への飢えを煽るのと同種、一方、「ノリピー」ではデパートなどの閉店セールに近い。日頃はあまり意識しない店への再認識や商品の再発見、・・・「のりピーはけっこう歌がうまい」と言う・・・そして、今後手に入らないかもしれないと言う言いしれぬ焦燥から売りを生む手法です。
▼前向きに不況に取り組むことがチャンスを生む!?
いずれにしろハングリーマーケティングの成否には商品や作り手の知名度、乾き、潜在的なファンの存在が前提となっていることには変わりはありませんが同時にこうした乾きを売りというカタチにし、市場を活性化させるのは世情や人情の機微に通じた技ではないでしょうか?
同時に思うのは、ある程度の固定層やファンが存在すればハングリーは仕掛けることが可能だということです。
そしてこうした可能性はコモディティ化したとされる商品やサービスにこそ求められるモノではないでしょうか?不況期の克服にむやみに右顧左眄することなく、自分の手持ち商品・サービスの棚卸しをすれば不況克服のネタには事欠かないのではないか?
問題はライフサイクルの罠やコモディティ化の現実をどのようにブレークスルーするか?です。
▼ビビった空気が挑戦を嫌う!
広告ビジネスに例を取れば、いま広告に数値的な効果を求める風潮が業界のトレンドになっています。確かにテクノローの進化でAIDMA的な購買行動が精査されて効果が期待できそうなムードが生まれています。こうした潮目の変化は、あまりにどんぶり勘定的なマスメディアベースの従来のメディアプランへの反省からであり、ターゲットを明確にし目標管理による理性的な出広やメディア評価が広告の効率的な運用を期待させるからです。こうした進歩は歓迎すべきです。そして理性的な広告への志向はマーケティング現場には追い風となってしかるべきですが、しかし現実は、悲しいかな、期待とは裏腹。
脱マス広告の旗手であるIT広告にあっては、いまクリエイターは数値にもとづく提案の裏付けをかつて以上に依頼主から要求されており、併せて目まぐるしく更新する技術情報や解析手法の採用に汲々とし、ビビった空気が蔓延、そして収益は日々低減、3K現象が加速しています。
こうした投資効果を厳しく精査することに人材を割くことは仕事確保に必須のように見えるかもしれません。しかし、このことはいまこそ問われるITマーケティングのクリエイティブの力をダメにしそうです。
いずれにしろ現実は、マーケティング本来である戦略づくり機能から離れ不況期ならではの重箱の隅をつつくような管理偏重した近視眼的なコスト削減、消えそうな職にしがみつくためのサラリーマンプランナー、マネジャーの失点回避のためにIT進化が奉仕する傾向が多く見られるのは残念なことです。
▼新撰組は何故強かった?
命がけの戦いが始まったいまです。斬られる前に切らねば負けの過酷な時代にデータ主義は余りに悠長。
想像力のない管理者や事なかれ主義者のためのプレゼンにしか役立たないステレオタイプのデータづくりに貴重な人材の知恵と時間を浪費することよりも、「やってみなはれ」の実践にもっと意を注ぐべきでしょう。
話は飛びますが、維新の動乱で有名な剣士たちがかの田舎侍集団である新撰組との斬り合いに後れをとり落命しました。
新撰組の剣法は、敵よりも早く剣を抜き初太刀でダメージを与えること、また敵よりも多く剣を振り回すことだったそうです。
これが実践剣法の極意とか、道場剣法育ちの高名な剣士が破れた理由です。
これはかつてのシリコンバーレーの戒め「早くに失敗せよ、安く失敗せよ、そして先に進め。」と同じ発想です。
ITベースのマーケティングはスピードと気軽さです。データ技術の洗練にまどわされることなく、時代の動き、人情の機微や移り変わりにもっとアクティブなるべきです。
とりわけコモディティ市場では「あっ!そうだったのか」の新鮮な驚きを発見して「ハングリーを創り出す」必要があります。
それにはITほど使い勝手がよく強力な武器はないと思います。
不況にビビってクリエイティブ力を縮じませる、それは不況スパイラルをさらに招く原因となるかもしれません。