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第741号『弟の命日』

【『世界から猫が消えたなら』】

7月12日は、弟、俊二の命日だ。
47歳だった。

ある日、あまりの頭痛に耐えかね病院へ。
CTスキャンで検査すると、脳に腫瘍が見つかり即入院。
土曜日に入院し、水曜日には手術。
右半身に麻痺が出た。
必死のリハビリを続け、なんとか退院した。
それから2年と10ヶ月、しっかりと生き抜いてくれた。

ボクの代わりに家業の時計眼鏡店を継ぎ、地元の商工会や、ねぷた祭り
も先頭に立っていた。
178センチ、110キロの躯体。
学生時代、柔道で少しは知られた存在だった。
誰からも信頼されていた。
ボクが帰省したときは、もっと活気ある町にするためにはどうしたらよ
いかと、夜遅くまで話をした。
映画が好きで、バイクにまたがり、笑顔がさまになる男だった。

はじめての甥っ子が生まれた時、本当に喜んでくれた。
馬が合うのか、帰省の度によく遊んでくれた。

これは、倅から聞いた話しだ。

“叔父さんが亡くなる少し前、呼び出されふたりで話しをした。
「俺はお前のことが好きだ。でもお前は、俺のことを忘れてしまうんだ
ろうな。この世界は俺がいなくなっても、なんの変わりもなく明日を迎
えるんだ」
でも、その時は何も答えられなかった” と。

それから10年が経ち、倅は『世界から猫が消えたなら』という小説を書
いた。
脳腫瘍で余命わずかという宣告をされた男が、一日の命と引き換えに、
世界からひとつずつ物を消していく・・・。

書きながら、倅は叔父さんへの答えを出そうとしていたことに気がつい
たという。

命日の日、弟とボクの共通の幼なじみ、Tちゃんが墓参りに行った写真が
フェイスブックにアップされていた。
弟の大好きなコカコーラが墓前に添えらてれていた。

ふと、弟がコーラを片手に夏祭りの準備に汗を流している。
そして、振り向きざまにニコリと笑う。
そんな、どうということもない風景がゆらゆらと蜃気楼のようにみえた。