「日本の若者が独特の悲しい顔をしているのは、自分のやっていることが海の向こうで通用しないってことが、なんとなくわかっちゃてるからだ。」
作家の村上龍氏が、雑誌だったかエッセイのなかでそんな内容のことを語っていた。
たしかに、渋谷や新宿に集まる独特の悲しい顔をした若者を見ていると残念ながら、なるほどなと合点がいく。
なにしろ妙にどんよりとした空気が街を覆っている。
気分はほぼ雨、時々曇りといった感じなのである。
しかし、そんな気分を変えてくれた若者に今年5月、ロスアンゼルスで会った。
「ゴンゾー君」のニックネームで呼ばれている大河原則人君である。
高校、大学を通して、バスケットボールを続けていたが、大学2年の時、審判としてホイッスルを初めて吹き、その虜になったという。
彼の夢はバスケットボールの世界最高峰NBAのコートでホイッスルを吹くこと。
バスケットの本場、アメリカで審判をしたい。
ホイッスルを吹きたい、それもいつかNBAのコートで吹きたい。
その想いは日増しに膨らみ、言葉もままならないまま単身渡米。
そして情報収集。
NASO(National Association of Sports Officials:全米スポーツ審判協会)から取り寄せたリストの中に、たまたま自分の住まいに近い人という理由で”ヒュー・ホリンズ”という名前を見つける。
ホリンズ氏は今年引退するまでNBAで27年間審判を務め、これまでファイナルやオールスターなど、数多くの大舞台でホイッスルを吹いてきたNBAの審判員の中で最も優れた審判の一人である。
「是非会ってみたい」伝もないままアポなしで彼のもとを訪れた。
それが、現在、彼の師匠ヒュー・ホリンズ氏との出会いである。
(この詳細は弊社、アメスポドットコム「ただいま修行中」でご覧いただけます。)
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「自分はラッキーでした」と彼は謙虚に言う。
しかし、その1つ1つの出来事をぼくはゴンゾー君に起きた偶然の幸運だったとは思えなかった。
彼は自分の態度を明快にし、電波を発している。
願い、発し、伝える。
そして世界と繋がった。
だから、願う磁力が働き、奇跡のような出会いが起きたのだと思う。
日ごろ業務でプレゼンテーションをする機会が多い。
ゴンゾー君と会い、最近プレゼンテーションの仕方を変えた。
心がけていることは3つ。
1. 説得力のあるビジュアルでみせる。
企画書はなるべく薄く、言葉ではなく絵で分かり易く伝える。
2. コンテンツでなくコンテキストで語る。
かつてルミエール兄弟の映画に映し出された列車に驚いた観客はもはや存在しないし、トライアスロンのような新奇なスポーツの出現もそう容易くは生まれない。
だから同じコンテンツであっても新しいストーリー、つまり文脈で語る。
たとえばNBAが素晴らしいのではなく、そこで生まれる、マイケル・ジョーダンやゴンゾー君たちが創り出すドラマに感動するように。
3. 熱を共有できるよう伝える。
一番重要なことは「伝えたい」という強い想い。
この3つのキーワードを通して、ぼくも世界や社会と繋がり、時代の空気を一緒に呼吸したいと願っている。
ともあれロスアンゼルス・レーカーズの本拠地ステープルセンターで、輝く顔をした日本の若者がホイッスルを吹く日はそう遠くはない。