いまでも週に1,2度LSDをやる。
LSD、といっても危ない薬物のことではない。
Long Slow Distance 長時間、ゆっくり、距離を走る。
はじめてトライアスロンに参加しようと決め、さてなにからどうすればいいのかと思案した。
そして、とりあえずウェアとシューズがあれば手軽に、どこでも出来る走ることから始めることにした。
しかしその距離は、お手軽にというわけにはいかなかった。
トライアスロンの最後の種目、ランは42.195キロとフルマラソンと同じ距離である。
(トライアスロンにはロング・ミドル・ショートと様々な距離のレースがある)
中学生のころ体育の授業でこの距離を確か「死に行く覚悟(42195=しにいくご)」と語呂合わせをして覚えた記憶がある。
そんな覚悟をしなければいけない距離を走るのか・・・。
少し恐怖が湧いた。
11月の河口湖マラソンに申込み、さてこの距離を走りきるために何をどうすればいいか考えた。
結論を先に決めプロセスを考えるというスタイルはいまでも時々やる。
一流ランナーは2時間10分前後で走る。
およそ倍の時間である4時間で完走するということを1つの目標にした。
本屋で3,4冊ランニングについてのハウツーものを購入してみる。
コーチでもいれば別だろうがそんな人もいなければ、学生時代陸上競技となんの関わりもなかった。
なんだかどれも技術的なことばかりでよくわからない。
そんなある日、1冊の本を知人から紹介された。
日本電気ホームエレクトロニクスの監督で女子マラソンの草分けの1人である浅井えりこを育てた佐々木功氏の「ゆっくり走れば速くなる」という本である。
このタイトルがまずは気に入った。
「欲しければ与えよ。」
「急がばまわれ。」
「ゆっくり走れば速くなる。」
真理は裏側に潜む。
よし、これでいこうと決めた。
長時間走ることで抹消毛細血管まで酸素が行き渡るよう開発し、心肺機能を高め、最大酸素摂取能力を高める。
4時間で走るためにはまず4時間走り続けるからだを作ることである。
長距離に向いた器としてのからだを作るための練習方法である。
まずは4キロを1時間かけて走ることから始めた。
ほとんど歩く速さである。
はたしてこれで速くなれるのかと不安になりながらも続けた。
レースがあと3週間と迫ったところで16キロを4時間かけて走れるようになっていた。
そこからはスピードをだして走るトレーニングである。
目標である4時間での完走を目指し、レースプランを立てた。
1キロを5分で20分走ると4キロ移動できる。
それを10回繰り返せば40キロでおよそ3時間20分。
プラス2キロで10分、もしイーブンで走り続けれれば3時間30分でゴールできる。
レース当日、30キロ地点まで1キロ5分のペース、2時間30分と、ほぼプラン通りに走った。
富士山は見えなかったが河口湖湖畔は開放感があり、走りやすい。
そんなことを思う余裕まであった。
楽勝じゃないか。
事件はその直後に起きた。
突然、足が動かなくなった。
まるで車がエンストしたみたいにである。
ハンガーロック、空腹である。
エネルギーを消耗し、体内に回らなくったのである。
それでもなんとか完走した。
ゴールしたとき時計は4時間9分4秒を指していた。
目標の4時間を9分ほどオーバーしていた。
残り12キロを走るのに1キロを8分30秒とほぼ倍の時間かかったことになる。
すこし悔しかったが、それでも普段味わえない大きな満足感があった。
プラン通りにいく人生をぼくはそれまで意識的に実行したことがなかったし、回りにそんな人間も知らなかった。
ほぼプラン通りにできたことが嬉しかった。
人生思い通りにいくことなんて、そんなにはない。
だから、自分のプランを少しでも実現するための努力をいまも続けている。
「ゆっくり走れば速くなる」と信じて。