第321号『教えを請う』

【そして船は行く】
【そして船は行く】

昨年、北陸の旧家から江戸中期に活躍した絵師、伊藤若冲の作品が見つかった。
六曲一双の大作「象鯨図屏風」。
海の王者、鯨に対し、それまで常識とされていた陸の王者、獅子に代わり象を対峙させるテーマの斬新さ。
そして、白と黒とを対比させる構図の大胆さに驚く。
随所に伝統的な枠組みをつかいながら、新しいアイデアがある。
落款などから若冲、80歳ころの作品と推定される。

「我が至上の愛 アストレとセラドン」を観た。
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠、エリック・ロメール監督の作品。
まるで、高校や大学の同好会で初めて映画製作をした時のような、なんともみずみずしく若さ溢れる仕上がりに感服した。
ロメール、87歳で完成したこのラブストーリーに圧倒された。

若くして成功を勝ち得る話しは多い。
元気がでるし、負けていられないとの気持ちにもなる。
しかし、素晴らしい成功が生まれるのは、なにも若い時ばかりとは限らない。
むしろ、高齢となり、純度の高い仕事をする先達は多い。
例えば、一見、平凡に見えながら千鈞の重みをあたえた映画、「英国王給仕人に乾杯!」の監督、イジー・メンツェルは70歳。
さらに、カンヌでパルムドールを受賞した『麦の穂を揺らす風』に続き、製作した『この自由な世界で』のケン・ローチ監督は73歳である。

彼らに共通しているのは軸がぶれず、自らが向かうべき先を見据えた生き方と、そこから生まれる作品の数々。
閉塞し、混迷する時だからこそ、しっかりと先達からの教えに耳目を傾けることにする。

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