第306号『ファンの聖地-1』

【スタジアム】
【スタジアム】

「アメリカでクリスマスと同じくらい大切なイベントが明日あります。僕のオフィスに遊びに来ませんか?」M氏のオフィスはロスアンゼルスのダウンタウン、ピコにある。
誘われるまま翌日、彼のオフィスを訪ねた。
すでに数人が大型テレビの前に陣取っている。
そして、直径7〜80センチはありそうな巨大なピザとビールが用意され、なんだか皆ワクワクしながらその時を待っている。
間もなく、アメリカンフィットボール最大のイベント「スーパーボウル」のキックオフの笛が鳴ろうとしていた。

このイベントによる経済効果の大きさや、この日のためにだけ流すTVCMが毎年話題にもなるという。
そういえば、オフィスに来るまでの間、道行く車には応援するチームの旗が掲げられ、クラクションを威勢良く鳴らしていた。
スポーツバーには人集りができていたし、ホテルの部屋でつけていたTVには、どのチャンネルを回してもこの話題ばかりが目に付いた。
なるほど、全米が「スーパーボウル」で盛り上がっているなと、肌で感じた。

なぜ、これほどまでに凄まじく熱狂するのか。
興味が湧き、調べているうちにさらに凄い事実を知った。

「グリーンベイ・パッカーズ」。
人口わずか10万人の街、ウィスコンシン州グリーンベイをフランチャイズにしているNFL(ナショナルフットボールリーグ)所属のチーム。
1919年設立。
当初、創立者カーリー・ランボーが勤めていた地元の缶詰会社”Indian Packing Company” がスポンサーだった。
ニックネーム「パッカーズ」の由来は、その缶詰会社のためにつけられた。
しかし、すぐにこの会社はスポンサーではなくなり、資金難にいたった。
そして生まれたアイデア、それは「株式を発行することによってファン所有のチームにする」 というものだった。
いまや、NFLばかりではなく、全米4大プロスポーツ唯一の「市民が所有するチーム」がこうして誕生した。

NFL(ナショナルフットボールリーグ)36のチーム中、スーパーボウル出場最多という古豪である。

「グリーンベイ・パッカーズ」は大都市の巨大な資本を持つチームに立ち向かう小さな勇者のようにも見える。

視聴率もグッズ売り上でも、常にトップを争い、本拠地ランボーフィールドは44シーズン連続でチケットが完売。
シーズンチケットのリストには65,000人以上が順番待ちをしている。
現在、シーズンチケット入手までの待ち時間は、およそ35年。

1923年に非営利法人となり、理事会によって運営され理事会は、地元の財界人を中心に、元パッカーズ選手、判事、大学の学長など、地元の人々が名を連ねる。
球団社長を除き、理事全員無給。
1923年、1935年、1950年、1997年、1998年に株が発行され、合計4,749,925株、 111,921人が所有している。
この株を売買することは禁止されており、配当金もなし。

毎年夏にグリーンベイで開催される株主総会には多くの株主が集まる。
ちなみに2006年には2万人以上が集まった。
ただ「グリーンベイ・パッカーズの株主=ファンである」ことを人々は楽しんでいる。

真のファンの姿を観に、この聖地を尋ねてみたい。

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