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第298号『白い神の棲む青い森』

【木々の佇まい】
【木々の佇まい】

道が遠ければ遠いほど、悪ければ悪いほど、その目的の場所の魅力は輝きを増す。
いまから20年ほど前の夏、そんな体験をした。

西津軽郡岩崎村。
陸奥岩崎駅は青森県弘前市から秋田県能代市を結ぶ五能線にある。
各駅停車のジーゼル車に揺られ、やっとの思いで到着した。
無人駅の乗降客は我々のみだった。
右手は日本海、左には森へと続く未舗装の道が延びていた。

子供たちがまだ小学生のころ、釣にハマっていた。
どこで調べたのかキス釣りのパラダイス、それが西津軽郡岩崎村の岩崎海岸だと言う。
せがまれ、帰省のついでに足を伸ばすことにした。
聞けば旅館もない、キャンプ道具を担ぎ、駅からキャンプ地の森へと向かう。
適当な場所を定めテントを張る。
近くには驚くほど青く澄んだ池があった。
そこで水を汲み夕食の準備をした。
薪を探しに森に入る。
森は深く、分けっても分け入っても先が見えない。
何か気配を感じ、少し怖くなった。

車での移動ではなかったので、持てる食料も限られた。
火をおこし、飯を炊く。
お湯を沸かし、豚汁を作る。
あとは、佃煮とふりかけ。
食後にポケットサイズのバーボンを少し。
質素な食事を摂り終え、満天の星空を眺めながらテントで眠った。

翌朝、釣り竿を持ち海岸へと向かう。
日の出とともに釣り始める。
釣り始めたとたん、うわさ通りキスがかかる。
それも次々とである。
朝飯はそのキスをアルミホイルで包み、焼いた。
その香ばしい匂いが立ち上った。

キャンプを張った場所は何処かといえば、世界遺産、白神にある「青池」からほど近い場所だった。
いまでは、キャンプどころか立ち入ることさえ侭ならない。

数年前から急行電車が走り、道も舗装された。
世界遺産として観光地になったからだ。
しかし、その遠さ、その難しさがなくなって、思い立てば何時でも行けるとの思いが、かえって遠いものにしているのではないか。

20年前の夏、子供たちと過ごした白神の森も海も振り返ればもう、それは記憶の中でしか存在しない場所である。

お知らせ
私事で恐縮です。
倅、川村元気の企画・プロデュース作品、おバカ映画『デトロイト・メタル・シティ』只今、東宝系劇場にて上映中。
ご高覧いただければ幸甚です。

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