第175号『50歳からの起業 – 5』

【欲求の階層】
【欲求の階層】

2001年の秋から年が明けて2002年の春まで、仕事をしながら、会社を作るために駆けずり回りました。
実際、事務所も、社名も、電話番号もなにも決まっていませんでした。
書店に飛び込み、会社を作るためのノウハウ本を数冊まとめ買いし、兎にも角にも、かたっぱしから読み始めました。
泥縄とはこのことです。

・会社の名前を決める
・会社の住所を決める
・会社の事業目的を決める
・資本金と出資口数を決める
・営業年度を決める
・類似商号の調査をする
・印鑑証明を用意する
・会社のハンコをつくる
・定款をつくる
・現物出資のあるときは別表をつける
・公証人役場で認証を受ける

こうした細々とした手続きを経て、銀行、税務署、法務局に提出する書類を作り、それぞれに届けなければなりません。
会社というものの仕組みを何も知らない。
この事実をいやというほど知った49歳の暮れでした。

本を読んでおおよそのことは分かるが、細かな具体的なことが分からない。
準備にはそれなりの時間がかるのは目に見えていました。
挨拶廻りと同時に、毎月更新する「極楽クラブ」の編集作業もあります。
時間はどんどん経つばかり、会社を立ち上げることができるのだろうかと不安が過ります。

本当に必要だと思った時は、その問題を解決するための人や事件が按配よく起こると聞いたことがありますが、まさしくその通りでした。
幸いにも、丁度、同じ時期に会社登記しようとしていた知人が現れたのです。
知人から手ほどきを受けながら、事務的な事柄を整理していくことができました。
それまでの私は頭痛が起きるほど事務処理が苦手でした。
しかし、面倒なことを1つ1つやることで、会社の仕組みや社会との関係をきり結ぶことの意味が分かってきたのです。

楽観と悲観。
狂喜と恐怖。
予想と現実。

数ヶ月続いた心の揺れ動きも、徐々にコントロールできるようになりました。
それは、悩みを問題に変換することができたからです。

つまり、ほんの数ヶ月前までは『会社に残るべきか辞めるべきか』という悩みを抱えていたのですが、『自分の会社を作る』という問題に変換したことにより、向かうべき方向性がはっきりしたのです。
悩みは解決できませんが、問題ならなんとか障害物競走のように乗り越えていけばいいのですから・・・。

問題を作ってみました。

1.なにをして稼ぐ会社か?
2.どこで仕事をするか?
3.誰と仕事をするのか?
4.誰に認めてもらいたいのか?
5.この会社をやることで自分はどうなりたいのか?

書き出してみて、気がついたことがありました。
これはマズローの欲求の5段階と同じだな、と。
アメリカの心理学者マズローによれば、人間のもつ欲求は5つの階層に分かれるというのです。

第1段階:生理的欲求(睡眠や食欲)
第2段階:安定への欲求(収入や住居など生活の基盤)
第3段階:社会的欲求 (仲間や友人など自分はどこに所属するか)
第4段階:尊敬への欲求  (他人に認めて欲しい)
第5段階:自己実現の欲求 (自己成長)

「喰うために、誰と組んでどんなことをどんなふうに実現し、そして最終的にどうなりたいのか」と。
すると、これまで仕事を通して信頼関係を築いてきた仲間たちの顔が次々と思い浮かんでくるのです。

仕事とは同じ想いを共にする仲間を作ることです。

こうして、私にとって遠い存在だった「会社」が随分と近いものになってきたのです。

次回につづく

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