第1069号『2024年度映画ベスト10(10位から8位)』

昨年1月5日に川崎の109シネマズ川崎にてアキ・カウリスマキ監督作品『枯れ葉』を皮切りに、年末12月30日Netflixで岩井俊二監督作品『Love Letter』まで、ジャスト100本の映画作品を観た。うち27作品は映画館で、その他はネットフリックスやアマゾンプライムでの鑑賞である。

毎年、なんらかのカタチで私的映画トップ(ベスト)10を選んでいるが、これはいわば自分が観た作品の整理整頓や、映画製作者に対しての敬意をこめて、自分なりの落とし前をつける意味で行っている儀式である。

映画館での鑑賞と自宅(ネットフリックスやアマゾンプライム)でのそれでは、音や画質などの密度が違うのは当然であり、まして没入感の違いは歴然としている。したがって、こうしたフォーマットの違いがあるにも係わらず順位を混在させることに異論があることは承知しているが、その時々で感じ受け止めた、映画的感動をいわば恣意的(身勝手)に並べてみた順番である。ただし今回、4Kリマスターで上映された・相米慎二監督作品『台風クラブ』(横浜関内シネマリンにて鑑賞)・リドリー・スコット監督作品『テルマ&ルイーズ』(横浜関内シネマリンにて鑑賞)・リチャード・カーティス監督作品『ラブ・アクチュアリー』(キノシネマ横浜みなとみらいにて鑑賞)に関してはランキングから除外した。歴史的にも証明された名作であり、この列に並べることはできないと判断した。

さて、まずは10位から、そろりと始めたい。

10.『カラオケ行こ!』
山下敦弘監督作品
2024年7月21日 Netflixにて鑑賞
2023年11月公開
興行収入: 7.8億円(2024年5月時点)

和山やまの人気コミックが原作。変声期に悩む合唱部所属の男子中学生と、ある理由で歌がうまくなりたいヤクザの交流をコミカルに描いた作品を、綾野剛主演で実写映画化。『天然コケッコー』『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督がメガホンをとり、テレビドラマ『アンナチュラル』映画『ラストマイル』の野木亜紀子が脚本を手がけた。

休日の午後、気楽な気持ちで観ていたら、思いがけず足をすくわれ、涙まで流してしまった作品である。

思春期から大人へ。クライマックスは中学生による鎮魂の『紅』に集約される。声変わりで声が出づらいところを、想いだけで歌い上げる。コミック本(印刷物)では出来ないけど、映画ならできること。それは、歌という音での表現。このシーンだけでも観る価値あり。そして、エンドロールで流れるリトルグリーモンスターの『紅』最高にいい。観終わった後もしばらく頭の中でこの音楽がループしていた。

9.『枯れ葉』 
アキ・カウリスマキ監督作品 
2024年1月5日 川崎の109シネマズ川崎にて鑑賞
2023年12月公開 フィンランド・ドイツ合作
興行収入: 1240万ドル

第76回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した、フィンランド映画界の巨匠アキ・カウリスマキ監督作品『枯れ葉』。世界累計興収1240万ドル(約20億円)を突破したという。 これは『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)に次いで、監督のキャリア史上2番目の大ヒットとなった。まずは、この成功を喜びたい。それにしても、なぜこんな地味な映画がうけたのか。それは、人々が求めて止まないことがこの作品にしっかりと込められているからだ。

学歴もなく、仕事もパッとしない中年の男と女。やるせなく、どんよりとした北欧の風景を背に、感情の起伏なく語られる言葉。それなのに、言葉にリズムがある。動きにテンポがある。気がつくと、アキ・カウリスマキの映像世界に引き込まれている。いつものカウリスマキである。『枯れ葉』は、このふたりがお互いに惹かれ合っていくラブストーリー映画である。

監督は、貧しく、しょうもないけれど、いい人たちであるこの二人に、愛が勝つ結末の物語にしたいと語っていた。まさしく、この愛の結末こそが興行成績にも現れたのだと思う。

8.『あんのこと』
入江悠監督作品
2024年6月13日 キノシネマ横浜みなとみらいにて鑑賞
2024年6月7日公開
興行収入:7日から19日目(62館)で、興行収入1億円を突破

監督は『SRサイタマノラッパー』シリーズや『AI崩壊』の入江悠。そして、19年のデビュー以来、数多の映画賞に輝き、TBS『不適切にもほどがある!』での熱演が話題となった最注目俳優・河合優実が、底辺から抜け出そうともがく主人公・杏を演じる。

実話を基にした今作は杏という女性を通し、この社会の歪みを容赦なく突きつける。同時に、生きようとする彼女の意志、その眼差しが見た美しい瞬間も描き出す。そして静かに観客に訴えかける。杏という女の子はたしかに、あなたの傍にいたのだと。

これまでの入江監督のスタイルとは、かなり異なる(エンターテイメントというよりはドキュメンタリー的な)テイストの作品に仕上がっていると感じた。そして、主演の河合優実。彼女は本作ならびに『ナミビア砂漠』『ルックバック』と、2024年を代表する俳優へと成長した女優である。ちなみに、僕が最初に河合の演技に出会ったのは、2021年8月公開の『サマーフィルムにのって』松本壮史監督作品であった。今作の河合の鬼気迫る芝居は一見の価値がある。とてつもなく、辛く悲しい物語の機微を現実味をもって演じている。見るのが辛いと感じる人もいるだろうが、それでも河合の存在感あふれる演技のおかげで、この理不尽な現実を受け止めるしかないと覚悟できた。その他の役者陣、佐藤二朗も善人とも悪人ともつかない存在を見事に演じているし、稲垣吾郎の週刊誌記者も脇役としての存在感があった。また、母親役の河井青葉にも凄まじい気迫を感じた。

やり場のない結末ではあるが、それでも胸糞が悪くならなかったのはなぜだろう。心の準備をして、もう一度、観てもよいと思える時を待ちたい。

毎回、映画の文章は伝えたいことが多く、どうしても長くなる。したがって普段のファンサイト通信のテキスト量の倍以上。ということで、読みやすさを考え、2〜3回に分けてお届けしたい。今回は8位までとし、次回第1070号では7位からスタートすることに。さて、どんな作品が順に並んでいるか、乞うご期待。

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