ウイルスの増殖を抑える効果がある物質として、いまや癌や肝炎などの治療には欠かせないインターフェロンや砂漠などの厳しい自然の中で暮らす生物の体内に存在し、生命の復活現象に深く関係しているといわれる糖、トレハロースなど画期的な商品開発で知られる林原の代表、林原健氏の著書「独創を貫く経営」(日本経済新聞社)によれば「不思議」とは一般に人間が考えても十分に説明することができないが、事象としては再現性のあることを指すという。
だから、「奇跡」は一回切りだが「不思議」は繰り返される。と。
先日、走ることの大好きな全国の医師たちの集まりである、日医ジョカーズ連盟主催のロードレースに参加した。
日本各地から、そして韓国からの参加者もいた。
300人ほどの小規模ではあるが、和やかな雰囲気に包まれたレースだった。
コースは千葉市の郊外、田植えが始まったばかりの、田園風景のなかを走る。
したがって、観客は田植えをしている農家の人たちとコース整備をしている大会運営のボランティアの方々が大半である。
距離は10キロ。
いまの僕には完走可能なぎりぎりの距離である。
スタートして10分、身体が悲鳴を上げる。
オーバーペースだ。
速度を落とす。
しかし、それでもきつい。
我慢しながらしばらく走る。
「リタイア」の文字が浮かぶ。
その時「韓医●●●」とハングル語のTシャツを着た小太りのランナーが後方から僕を追い越し、「ありがとう」と少々訛りのある、明るい声でボランティアのスタッフに声をかけながら走り去っていく。
スタッフはレース開始の前から最後まで、参加者の安全を確保するため、その場にいなければならず見た目以上に大変な作業である。
だから、声をかけられたスタッフは嬉しいだろうなと思った。
そして、誰よりも声をかけたそのランナー自身がなんとも楽しげで気持ちよさそうにみえた。
なんだか僕もつられて、スタッフの方に「ありがとう」と声をかけてみた。
すると不思議なことに、つい今し方まで悲鳴を上げていた身体が嘘のように楽になり、元気が出てきた。
しばらく走るとまたスタッフの姿が見えてきた。
もう一度試してみたくなり「ありがとう」と声をかけてみた。
「頑張ってください」と応援の声が返ってきた。
すると、また元気になった。
そこからはコース整備をしているスタッフ一人一人に「ありがとう」と声をかけながら走った。
そして、気が付けばもうゴールは目前にあった。
「ありがとう」は不思議なことばである。
この日、「奇跡」は起きなかったが「不思議」には出会えた。