第1115号『文字にまつわるあれこれ』

現在業務で使っているPC(パソコン)が、熱がこもり異音が心配で買い替えを検討し、吟味していた。事務用であればWindowsでいいかとも思ったが、Apple(Mac)も捨てがたい。Appleはデザイン性とセキュリティに優れ、クリエティブに強い。一方、Windowsは汎用性と豊富なソフトとハードの選択肢、価格帯が広くビジネスやゲームにも適していると言われている。

両者それぞれの特徴のなかで、一番の違いはフォント(書体、つまりタイプフェイスをデジタルデータ化したもの)。Apple(Mac)に採用されている文字の美しさは、Windowsに比べ圧倒的に勝っている。創業者であるスティーブ・ジョブズがプロダクト設計当初から、一番こだわったのがこのフォントだった。では、なぜこだわったのか。その因果は学生時代、彼がカリグラフィー(ペンや筆でアルファベットなどの文字を美しく表現する西洋的書道の文字芸術)を学んだことに起因している。

文字に関してのあれこれで、ふと思い出したことがある。

大学3年の時のことだ。編集(エディトリアルデザイン)やタイポグラフィ(フォント=書体を選び、サイズ・行間・配置などを調整して、文字全体を美しく、読みやすく見せるための「技術や概念」全般を指す)を学びたいと思い立った。そこで、当時市ヶ谷にあった日本エディタースクールに半年ほど席を置いた。ここで出会ったのが、故佐藤敬之助先生だった。佐藤先生は日本タイポグラフィ協会の創設メンバーであり、桑沢デザイン研究所、武蔵野美術大学でタイポグラフィの教育に携わり、アートディレクター浅葉克己氏をはじめ、数々のデザイナーとタイポグラファーに影響を与えた師でもある。

先生は少し変わった経歴の持ち主であった。東京帝国大学で動物学を学び、その後京都の寺で仏門の門徒して修行した。先生と文字との出会いは、門徒として写経を重ねるうちに、その魅力に取り憑かれたという。先生の授業は、どれも興味深く面白かったが、なかでも印象に残っているのが「間」についてのお話だった。

師曰く。「間」という文字は旧漢字では、門構えに月と書く。先生は、黒板に白墨で、「門」と夜空に浮かぶ「月」を描いた。そして「閒」とは、門の扉の隙間から漏れる獏とした月の光の様を言うのだと。掴めそうで、掴めないもの。無いけれど有るもの、それが間だと。まさしく、漢字は表意の文字であると。当時の師の歳に近づき、改めて間の価値を感じる日々である。

さて、あれこれ思案したが、PCはやっぱりリンゴにしようかな。

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