第102号『肩代わりの時代』

企業の効率化、生産性の大幅な向上による景気上昇が言われています。
こうした業績向上には、企業の努力、とくにITテクノロジー導入による省力への努力などが大いに貢献していることですが、一方、忘れて欲しくないことは、こうした貢献には私たち生活者の一方ならない努力があるということです。
それは本来、企業がやるべき仕事を肩代わりして私たちが行っていると言うことです。

こうした「肩代わり」は余りに巧みに押しつけられているため、日頃は意識されていませんが、例えばJRの切符の販売の自動販売機化、「すいか」システム、外食やカフェでのセルフサービス、スーパーでのセルフサービスやセルフ袋詰め、お持ち帰りなどなど、挙げれば際限がないほどです。

また企業の人事でも即戦力という考えで、能力開発・教育への投資も他社や人材そのものに肩代わりしていますし、コンビニなど多店舗を展開する仕組みもプロの店舗運営をマニュアルによりアマチュアに肩代わりさせているとも言えましょう。
行政が地域向上に推進しているボランティアにしてもそうです。
まさに時代は「肩代わり」によって支えられているといっても言い過ぎではありません。

それでは、こうした「肩代わり」をさせられている生活者側は、それに見合った価値を与えられているのでしょうか?
自販機ひとつにしてもそれに応える生活技術を学ばねばなりませんし、ATMでは、入力や確認には、結構高度な技術と忍耐力が必要です。

最近、出張に出ることがあり、馴染みの宿に連絡したら、廃業とかで急きょ宿探しを始めました。
宿探しにはネットです。
そして実感したのですが、なんと面倒な作業が求められているか、ということです。
まさにいらいらの連続です。
宿探しと言えばかつては時刻表の宿泊案内の欄をチェックし、電話で諾否の問い合わせや料金交渉をすればそれでお終い。
時間にすれば十数分。
しかし、ネットでは1時間以上は必要ですし、しかも知名の宿やサービス業社の推奨する範囲での選択で、選べる幅も狭まります。

なんということはありません。
旅館や観光サービス業者とってはやるべき予約サービスを客が代行して、店や事業者は人手が省けているのかもしれませんが、多くの時間といらいらを得る客にとってたまったものではありません。
省力化テクノロジーの導入は事業者の自分勝手で顧客には不便を強いる感じです。

私はテクノロジーを否定するものではありませんが、しかし考えて欲しいのは、テクノロジーを利用し、「肩代わり」する顧客の事情や便益です。
私が経験した予約で言えば、まずお客にとって何が必要か、と言う知見です。
また、ネットと言うメディアですべて完結させようと言うテクノロジーの独りよがりへの見直しです。
よく顧客インターフェイスと言いますが、システムの設計者は、自分がまず顧客として納得できるインターフェイスを実現しているかを自分で体感することが大切ではないでしょうか?

ウエブはじめITの話ではいつも技術が優先しています。
しかし、これは奇妙なことです。
本当は「肩代わり」をして頂いていると言う考えで、いかに従来の対人サービスよりも楽しく快適にするか、が本来の論議でしょう。

「モノ」にしろ「食」にしろ、顧客にとって「快適」「旨い」が価値であり、技術はどうでもいいのです。
この当たり前を、もっともっと追求して欲しいと思います。

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