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第956号『どうでもいいことだけど思い出したこと』

会話をしていて、地名や名前や日時など思い出せないことがしばしばある。
一方、あるきっかけで淀みなく記憶がよみがえることもある。
困ったことに肝心なことはなかなか思い出せず、どうでもいいようなことに限って詳細に覚えているものだ。

先日、ネットニュースで日活が1971年に製作を開始した「日活ロマンポルノ」が、昨年2021年11月20日で生誕50周年を迎えたという記事を読んだ。
加えて記事には、昨年の第78回ヴェネツィア国際映画祭のクラシック部門(ヴェニス・クラシックス)で『秘(まるひ)色情めす市場』が初選出されたとも。
日活はロマンポルノ50周年記念プロジェクトの一貫として、新企画「ROMAN PORNO NOW(ロマンポルノ・ナウ)」を立ち上げて、3本の新作を製作し、そのうちの1本で主演に金子大地を起用( NHK 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、源頼朝の息子・源頼家役のほか、松本壮史監督作品『サマーフィルムにのって』でも存在感ある演技を見せていた)し、松居大悟監督作品『手』を今夏上映するという。
期待したい。

大学4年の夏、電通映画社の最終選考6人に残り、最後の関門である(大学の夏休みを利用した3週間ほどの)夏期研修を受けたが結果として不採用となった。
このときの研修内容は、少し大げさに言えばその後の人生の発想方法やマーケティング手法の仕組みを知ることができ、すこぶる役に立った。
この話はまた別の機会に。

秋になり、(電通映画社1つしか受けていなかったので)さて次の就職試験はと考えていたが、さして焦りもせず漫然と日々を過ごしていた。
ある日、弟に会いに下宿先の西荻窪まで出かけた。
あいにく留守だった。
時間を持て余し、西荻窪にあった映画館で映画を観ることにした。
上映されていたのが、『秘(まるひ)色情めす市場』。
田中登監督作品、主演は芹明香(せりめいか)。
田中監督は73年に日本映画監督協会で新人賞をとり、キネマ旬報でも高評価であることは知っていた。
ほぼモノクロフィルムで部分的にカラーフィルムでの上映。
映画が始まってしばらく、これはドキュメンタリーなのかと思うような大阪西成区の風景が映し出された。
内容もこれまた、凄まじい。
そして、主演の芹明香は地の底に降り立った天使か菩薩のように見えた。
観終わって、しばらく席を立てず呆然としていた。
映画の余韻を引きずったまま、映画館の隣あった「ポエム」という喫茶店に入った。
9月中旬、まだまだ夏の暑さを感じ、僕はアイスコーヒーを注文した。
注文したアイスコーヒーにストローを刺し、一口飲んで息をついた。

ふと、斜め前に座っている女性に目がいった。
サングラスをしているが、どこか見覚えのある顔だ。
少し間があって、息を呑んだ。
その人こそまぎれもなく、いま観てきたばかりの映画『秘(まるひ)色情めす市場』の主演、芹明香さんではないか!
映画同様、華奢で小さい。
そして、どことなく宇野亜喜良のイラストに出てきそうな面長な顔立ちだった。
僕は慌てて、カバンをまさぐりペンと紙を探した。
ペンはあったが紙が見つからず、少し水滴でふやけたアイスコーヒーのコースターを持って彼女の前に立ち「サインをいただけませんか」とお願いした。
芹さんは、ニコリとし、コースターに少し滲んだサインをしてくれた。

偶然は重なるものだ。
芹さんからサインをもらった翌々週、日活が10年ぶりの学卒採用をするとの情報を学校の掲示板で知った。
倍率が高いことも知っていたが、これも何かの縁、きっと天使か菩薩の導きではないかと思い躊躇なく書類を提出した。
書類選考、筆記試験、2回の面接を経て奇跡的に採用が決まった。
はたして導きはあった。
こうして、社会人最初の仕事場は調布染地にある日活調布撮影所となった。

同期入社は、後に『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズで監督をつとめた那須博之くん。
彼と、入社すぐに研修として付いたのが藤田敏八監督(代表作『八月の濡れた砂』)の組。
劇中で使う犬の世話や深夜食(当時、コンビニの存在しない時代、深夜に数十人分の食事の用意は至難だった)の手配、スタッフ間のトラブルの処理など、楽しくも地獄のような日々を過ごした。
そして、僕は2年あまりでくじけ折れ退社した。
すでに、那須くんも敏八さんも鬼籍に入られた。
いまでも、ふとしたきっかけでどうでもいいような記憶がよみがえる。
でも、僕にとってはこれも大切な大切な青春の思い出の欠片である。

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