11日、アキレス腱断裂で入院し手術。13日に退院してから今日まで十数日、外出したのは1日のみ。それも、手術後の傷の経過を看てもらい、リハビリのために病院に行った時だけ。それ以外は、部屋に閉じ込められた、いわば引き籠もり生活。
引き籠もり生活になった大きな原因は、自宅がエレベーターの無い3階にあり、ギブスで左足が固められ、右脚のみでの階段の上り降りが辛くて怖いからだ。併せて、それを可能にした理由は、コロナを機に3年前から大部分の仕事をリモートでしており、直接会わずとも、ほぼ問題なく取り組むことができている状態にあったからだ。そして、部屋で過ごす時間が思いのほか楽しいと感じた。
当初、移動が容易でないことに困惑し不安な気持ちでいっぱいだった。しかし、この現状を変えることはどうあがいても難しい。となれば、自由に動き回れたこれまでのやり方と感じ方を変えるしかない。不自由であることを前提に状況を受け入れるしかない。ならばと、こう考えてみることにした。「世界を変えるとは、世界の見方と感じ方を変えることだ」と。
こうして、まずは手近にある部屋をじっくりと見回してみた。そして気がついたことがある。部屋に置かれている本・CD・食器・電化製品・家具・・・、その1つ1つが、僕と妻の好きなモノたちで構成されている。その時々の気分やお財布の具合で選んだモノたちだから、決して高価なものでもなければ、世間一般の評価からすれば、価値の高いものでも無いかもしれない。でも、明らかに僕たちの気分やセンスと合致している。こうして、あらためて眺めてみると、好きなモノたちに囲まれたコスモワールド(小宇宙)なのだ。
朝、コーヒーを淹れ、CD棚から1枚引き出しプレーヤーで音を流す。そして、本箱に並ぶ本のタイトルを見ながら、気になった本を引き抜く。椅子に座り、読み始める。こうして、仕事を開始するまでの時間を過ごす。このCDは40代に聴いた音だし、手にしている本も30代に読んだものである。でも、流れてくる音が思っていた以上に心地よく感じる。そして、読んでいる本も以前とは違う面白さを覚えた。しばらく聴いていなかったCD、再読することなく置かれた本。CDも本も長い間、手放すことなく側に置いていた。そのモノたちを再び手にした瞬間、まるで冬眠から目が覚めたかのよう、固く閉じた目を開き喜んでくれたように感じた。
そして、もう1つ。この引き籠もり生活で新しいお楽しみを見つけた。Netflixでの映像コンテンツの視聴である。2,3年前、山田孝之主演で話題になった『全裸監督』が観たくてNetflixと契約した。そして、幾つかの作品を観てはいたものの、せいぜい月に1,2回観ればいいほうだった。今回あらためて観て、これほどまでに充実したコンテンツが詰まっていることに驚いた。数年後、地上波TVもいまの新聞のような末路をたどるかもしれない。
この10日ほどの間にNetflixで観た作品の中から、秀作と感じた幾つかを紹介したい。
・エドガード・ベルガー監督作品、映画『西部戦線異状なし』
1930年にアカデミー賞を受賞したルイス・マイルストン監督によるものではなく、ドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルクの長編小説「西部戦線異状なし」を、原作の母国ドイツであらためて映画化した戦争映画。この作品を通して、戦争の生々しさと愚かさを知ることができる秀作である。全ての為政者や似非愛国者に観て感じてもらいたいと思った。
・ギレルモ・デル・トロ監督作品、映画『ピノッキオ』
僕の最も好きな映画監督の一人である。アカデミー賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』そして『パンズ・ラビリンス』や『ナイトメア・アリー』など、どれをとってもハズレがない。天才ギレルモ・デル・トロが、コマ送りアニメーションで描くピノッキオの物語。間違いないく今年のアカデミー賞でも候補にあがるだろう。
・グリンダ・チャーダ監督作品、映画『カセットテープダイアリーズ』
2019年製作の少し古い映画だが、1980年代のイギリスが舞台。パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら、成長していく姿を実話をもとに描いた青春音楽ドラマ。映画『モテキ』のアイディアの原石があちらこちらに見参された点もおもしろった。
・スコット・フランク監督作品、ドラマシリーズ全7話 『クィーンズギャンビット』
母親との死別により孤児院に入った少女が、あるキッカケでチェスの才能に目覚める。そしてその波乱の人生のなかで成長していく姿が描かれる。チェスのルールを知らずとも楽しめ、しかも60年代のレトロモダンなファンションや音楽も味わえる秀作である。主演の新人、アニャ・テイラー=ジョイはこれからますますの活躍が期待される。
・川村元気企画、是枝裕和総監督作品、ドラマシリーズ全8話『舞妓さんちのまかないさん』
京都の花街を舞台に、華やかな舞妓さんの日々をさらりと、しかし丁寧に描いている。その日常と重なるように、ほっこりするような賄いごはんも魅力的である。この漫画原作『舞妓さんちのまかないさん』が、総合演出・監督・脚本に是枝裕和監督を迎え実写ドラマ化! 1月12日(木)よりNetflixにて世界同時配信。スタッフもキャストもこれ以外これ以上ないという布陣である。観る度ごとにその味わいが増してくる作品でもある。おそらく今年一番の作品かも。
部屋に閉じ込められても、新たな発見はある。お楽しみはこれからだ。