前号で「左アキレス腱断裂」のため、入院にいたるまでの経緯について書いた。さて今号では、その後についてお話したい。先週10日火曜日、大船駅から車で10分ほどのところにある湘南鎌倉総合病院で受診した。診療科は外傷整形外科で担当医は佐藤亮医師。歳は30代後半ころか?なかなかのイケメンで、覇気があり明瞭な言葉で受け答えをしてくれる。
持参した大船にある岩田整形クリニック院長の紹介状とレントゲン画像を見ながら、先生は採りうる治療の方法とその手立てを説明してくれた。治療方法は2つ。断裂したアキレス腱を直接縫合する手術治療法と、手術を行わずギブスや装具を用いて腱の修復を促す保存療法。それぞれに長所と短所がある。手術治療法の長所は、完治が早いことと再断裂のリスクが減ること。ただし短所としては、手術をするという事自体のリスクがある。一方の保存療法の場合、長所として手術というリスクは免れるが、短所としては完治まで時間がかかることと、再断裂しやすいということである。
次に、この2つの治療過程の手順を時系列にまとめた一覧表を示しながら、注意点と経過ごとのポイントを解説してくれた。その中で特に強く耳に飛び込んできたワードがあった。それは「プロトコル(標準的な手順)」という言葉。普段、僕たちの仕事でもよく使われるワードだ。プロトコルとはコンピュータとコンピュータがネットワークを通じて通信する際に決められた約束事・決まりのことだ。 例えば「HTTP」はWebブラウザで利用し、「SMTP」や「POP3」は電子メールソフトで利用する。 「DHCP」や「DNS」はアプリケーション通信を行うため使うときのワードある。ところが今回、医療用語としてこの「プロトコル」というワードを聴くと、なにかとても新鮮な感じがした。そして閃き腑に落ちた。そうか!この怪我の治療過程をプロトコル(腱がつながるための手順)と捉えればいいんだと。
つまり「アキレス腱断裂」という怪我には、すでに手順が確立されている治療法があり、その手順に従ってやっていけばいいだけなのだ。例えれば、山の頂上に登る(怪我を完治する)ためにどのコース(手術か保存かの治療方法)をとればいいのかを決め、その装備(処方する薬やギブスや車椅子)をどうするかを考える。そして1合目から頂上までのコース上で注意するポイントをしっかりと確認しながら頂上(完治)目指して登って行く。そんなふうに理解できた。
主なポイントだけ、具体的にはこんな手順だ。・手術後:ヒール付きギブスで荷重歩行開始・1週目:装具荷重歩行練習・2週目:中間位までの足関節可動域運動の訓練を4週目まで・5週目:足関節抵抗運動・6週目:両脚カーフレイズ(つま先立ちで踵を上下する運動)を7週目まで・8週目:アキレス腱装具除去し、全荷重歩行練習開始・9週目片脚カーフレイズ、階段昇降運動開始を11週まで・12週目:ジョギング開始。
そして、佐藤医師からどちらの方法を採用するのか、選択を求められた。自ずと結論は導き出された。
早期にトライアスロン復帰に向けたトレーニングを再開したいし、一日も早く仕事に関係する方々と直接お会いしたい。であれば、手術治療の一択だろう。そう決めた。その旨を告げると、佐藤医師もすぐさま動いてくれた。翌日11日午後に入院し、12日朝に手術、そして13日退院というスケジュールを組んでくれた。
12日、朝4時前には目が覚めた。手術までの5時間、YouTubeで坂本龍一の曲を聴きながら待っていたが、それもあっという間だった。9時、看護師と手術室へ向かった。事前に決めていたことだが、麻酔は膝から下に効くブロック麻酔を採用した。全身麻酔・下半身麻酔・ブロック麻酔、それぞれの長短を聞いた上でブロック麻酔でと判断した。まずは仰向けになり、太ももに麻酔注射を打つ、これはかなり痛いのではないかと想像していたが、思ったほどの痛みはない。つぎにうつ伏せになり、膝の裏に麻酔注射を打つ。すでに最初の麻酔が効きはじめているのでほぼ痛みは感じない。佐藤医師と看護師3名とのチームでの手術が始まった。足首のあたりがモゾモゾしているような感覚はあるものの、麻酔が効いているせいかそれ以上の違和感はない。こうして、1時間30分ほどで手術は終わった。
部屋に戻り、しばらくして食事を摂る。あっという間に夜が来る。病院にいると時間の感覚がなくなる。膝下を触るが感覚がまったくない。足指もまったく動かない。まるでコンクリートのようだ。少し心配になりながら眠りについた。真夜中3時ころ、痛みを感じた。それも尋常ではないほどの痛みだ。麻酔がとけはじめたのだ。それと同時に足の指がわずかに動くようになった。猛烈に痛いけど嬉しくなった。
翌日13日の退院までの間に手術時のギブスを外し、リハビリ用の装具が届き、その装着テストをし、リハビリ室で装具を着けたまま階段の昇降練習もした。これから、回復への長い長いプロトコルが始まる。これから始まるリハビリのことなども、このファンサイト通信で時折お伝えしたい。
10歳のとき、虫垂炎の手術で入院したが、もはやその記憶はほぼない。だから、今回は何から何まで初体験といってもいい。入院・手術に必要な血液や心電図の検査、身の回り品の準備、そして身体の不安を抱えた状態での自宅から病院までの移動。リスクと煩わしい事柄を1つ1つ片付けていくことを要求される。怪我や病気を治すためには、忍耐力はもちろんだが、入退院のための煩雑な事務手続きの対応する知力、各種の検査で身体の向きを変えたり移動するための体力、そして入院費や交通費などの金力もいる。すべて、思った以上に大変なことばかりが重なる。今回の体験で実感したことである。そして、こうした中で動ぜずおだやかに、傍らにいてくれる妻に「ありがとう」と言いたい。
2件のフィードバック
最初のアキレス腱断裂は近所のテニスコートで右足。東北一周ツーリングはその回復直後で懐かしい思い出です。二度目のアキレス腱断裂は筑波のテニスコートで左足。結果、両足のアキレス腱断裂です。10年の間隔はありますが運動を控え、瞬間荷重を少なくする減量に努めましたが効果は無く、アキレス腱が弱いのは家系のようで諦めました。自宅マンションの階段(エレベーター無しの5階)、通勤バスの高い昇降ステップ、滑り易い駅の床など二次災害の可能性は数え切れないほどありました。交差点でのエンストさえ回避できれば、バイク通勤は本当に快適でした。それと、あの狭いユニットバスが片足入浴には意外に使い易いことも発見しました。
財満先生、ご無沙汰しております。先生も体験者だったんですね。
手術したのですか?保存法でも手術法でも、このリハビリ、なかなか辛いですね。
東北一周ツーリング、懐かしいです。あの時、回復直後だったとは。
いまは、しっかりと治療に専念します。
コメントありがとうございました。