第77号『宣言』

なりたい自分になるべく、誰もが一度は此岸から彼岸に渡ることを思い立つ。
しかし、その多くは眼前に広がる、大きく激しく得体の知れないうねりを見て躊躇し、立ちすくむ。
そして、いまある自分と此岸に留まることを不承不承ながら折り合いを付け甘受する。

しかし、その想い絶ちがたき者は、彼岸にたどり着くためにいかなる施策をとるか。

渡ることを宣言すること、そして勇気をもって飛び込むこと。

通例、正当性をもって語られることもなく、馬鹿げていると一笑にふされるであろうが、実はこうした方法でしか渡れないということは多くの成功者から聞き及んで久しい。

先日、此岸から彼岸に渡ることに成功した謙虚で聡明な若者に15年ぶりに再会した。

デザイナーでSOPH.のオーナーでもある清永浩文氏ある。

A・P・C(デザイナー、ジャン・トゥイトゥがケンゾーやアニエス・ベーのアシスタントを経て1987年に創立したファンションブランド)の日本の代理店、(株)イースト・バイ・ウエストでショップの内装から商品企画まで、ディレクターとして活躍した後、自らのブランドとして1998年創立したのがSOPH.である。

現在、自社ブランドの精力的な発表はもとより、ナイキとのサッカーラインのウエアでの提携ブランド「FCリアルブリストル」をはじめ、元Jリーガーでコメンテーターの中西哲生氏やビジュアル・クリエーターのタナカ ノリユキ氏とのコラボレーション、音楽レーベル「music is beautiful」の創立、J1大分トリニータのスポンサーなど広範なジャンルで活躍している。
もはや、単に、ファッションの世界に留まることなく、彼の考え方そのもがテーマになり様々に広がりをもちはじめている。

縁があり、彼の出身地、大分県のある企業CIの制作をお手伝いをした。
当時、清永氏はその企業の企画制作部の担当だった。
いくつかのプレゼンテーションや地元メディアとの打ち合わせなど、数日、彼と共に行動した。

移動の車のなかで、彼は自分の想いをほんの少し語ってくれた。
それは大分に留まることから踏み出したいということであったように記憶している。
それはもともと彼の中にあった何かが少し動いた、というようなことにすぎない。
しかし僕との出会いが、そのきっかけの一つになったとすれば、存外に名誉なことである。

上京して13年、なりたい自分を手に入れた。
なぜそれが可能になったのか。

彼は自らの手を揚げ、宣言をし、此岸から彼岸へと渡った。
それがすべてである。

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