第149号『途中下車』

若いうちは考えもしなかったことで、四十を過ぎたころからやっとわかったことがある。

「人間は死ぬ」、というこの明瞭で簡潔な事実である。

そのことがわかり始めてから、今日という一日の大切さが身にしみてくる。
そして、その事実をどう受け止めていいものやらと思案する。
しかし、そのうち日々の雑事に追われ、おおかたは歯牙にもかけなくなる。
「昨日」と同じ「今日」を無作為に過ごす。
そして、ぼくも左様に日々を重ねていた。

2001年7月、実弟の死をきっかけに、日記を書くようになった。

弟の担当医との問答や病状、手術経過などをスケジュール帳の余白に記録していたことが、そもそもの始まりである。
とは言うものの、毎日、弟の傍らにいたわけではないし、日々、記録していたわけでもないから、実態としては日記と呼べるしろものではなかった。

それでも、時間の経過とともに変化して行く弟の様に驚愕し、その場に佇むしかない自分を、できるだけ冷静に、そして事実を受け止めようと観察し記録したいと思った。

ここ数年、日記をつけて、気が付いたことがある。
それは、「昨日」と違う「今日」を発見することである。

概ね「昨日」と「今日」が劇的に違うということはまずない。
気温にしても、木々の青味にしても。

日記には天候や自然の移ろい、日々の出来事などその日、気になったことや、自分のアンテナでキャッチした事柄を書く。
そうして、一週間、一ヶ月、一年と過ぎて行くと、その違いは歴然とする。
若葉は青葉になり、紅葉し枯れる。
そして、体重も・・・。(^^!
そればかりか、自分の価値の変化や着眼点の移行にも気が付くようになった。

日記をつけることで、無意識にやり過ごすしていたことや、見えにくい変化が見えやすくなる。
その変化がおもしろい。

この世に生まれた者は、かならず死ぬ。
死は人生の到達点ではある。
だが、それは願望でも目的でもない。
生きるということは、すべて人生の途中経過の出来事である。
まさしく、その途中こそが大切なのだ。と思う。

だから、まっしぐらに目的地に向かう旅よりもスナップ写真を撮るように日記をつけながら、風景や人との出会いをじっくりと楽しむ途中下車の旅がいい。

【途中下車で出会った今週のベスト3】
毎週、個人的につけているノンジャンル混合ベスト3です。

1.06年W杯アジア最終予選、バーレンに1−0で勝利
日本の強さはなんといっても中盤にある。
その輝きを取り戻した一戦だった。
北朝鮮戦では中田英、中村、三都主を欠いたがみごとW杯出場を執念で決めてくれた。
ありがとう日本代表!

2.映画「電車男」村上正典監督作品
ビリー・ワイルダー監督の「アパートの鍵貸します」やクァク・ジェヨン監督の韓国映画「猟奇的な彼女」と通 じる良質な笑いあり、涙ありのロマンチック・コメディとして楽しめた。
そして、なによりも、本当にはあり得ないような虚をあたかも本当にあったかのように描いてみせ、しかも、観終わったあと、だれもがハッピーな気分になるような映画作りに成功している。

3.コールドプレイの新譜CD「X&Y」
前作、「A RUSH OF BLOOD TO THE HEAD」を軽くクリアした素晴らしい仕上がりである。
Thirteen Sensesの「The Inveitation」,Oasisの「INFORMATION」そしてこのCOLD PLAY「X&Y」とUK音楽シーンは相変わらず強力である。

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