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第146号『なごり雨』

4月23日、土曜日、雨、気温7度。
8時55分、青森空港に到着。
山の中腹にある空港は滑走路を除き、残雪に覆われていた。
この日、午後から執り行われる友の埋骨のため、帰省した。

空港ロビーから外に出る。
寒い。
羽田を発つときの、汗ばむほどの陽気が嘘のようである。

バスで弘前まで移動。
10時、市内に到着。
1時から始まる式まで、まだ時間がある。
あてもなくぶらぶらと歩く。
週末にもかかわらず、他の地方都市同様、この街も人影はまばらだ。

喫茶店、書店、映画館、古本屋、花屋、帽子店、和菓子屋、乾物屋、洋品店…

気がつくと、この街に暮らしていたときの痕跡を探していた。
この街の道は城下町だったゆえ、敵の侵入を困難にするために様々な工夫が施されている。
直進を防ぐため、二重に角をつけた「枡形(ますがた)」もその一つで、町の入り口や要所に、いまも幾つも残っている。

見通しが悪く、迷宮に迷い込んだような気分になる。

しばらく徘徊し、高校時代、彼と遊んだビリヤード場や映画館のある雑居ビルの前にでた。

もはや時効であろうが、教育者で太宰治の研究者でもあった彼の父上の書斎の棚から数冊の本を失敬し、それを古書店に売り飛ばし、遊興費を捻出し、ここで遊んだ日のことを思い出した。(弘前は学生に寛大な町である)

たしか、あの日、観た映画はアントニオーニの「欲望」だったと記憶している。
映画を観終わり、隣にある蕎麦屋で、かけそばを食べ、その後、馴染みの喫茶店で何時間も話をした。

映画のこと、小説のこと、音楽のこと、政治のこと、話しは尽きなかった。
無防備な夢と無尽蔵の希望があった。

振り返ってみたとき、かならずしも、あのころに思い描いた自分にはなってはいない。
いや、状況はむしろまったく異相の空間を彷徨っているのかもしれない。

なにが原因で、自らの命を断たなければならなかったのか。
彼の心中を察することは難しいし、納得しがたい。

雨が少し激しくなった。

そういえば、朝からなにも口にしていない。
雨宿りも兼ね、蕎麦屋に入る。

かけそばを一杯注文する。
湯気をあげ出てきたそばの汁をすする。
昆布をベースにした白だしの旨味が口の中に広がる。
そばを軽く噛む。
津軽そば特有のぷちぷちとした食感の後、するりとした喉ごし、とろろいもでそば粉をつないでいるからだ。
そばも汁もすべて腹に収める。

内装も、店員も、もちろんあのころの様子とは違う。
でも、旨さはあのころと変わらなかった。
そして、体と気持ちが少し温かくなった。

さて、彼が永眠する菩提寺まで出かけるとするか。

菩提寺に行くには茂森町枡形を通る。
もしかしたら、「枡形」で道に迷っている彼に出会えるかもしれない。

店を出ると、なごり雨はまだ降り続いていた。

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