毎日のようにTVニュースでトランプが映し出される。なにげなく見ているうちに、掲げる関税等のボードや、かぶっているキャップのMAGAのスローガンなど、政権が掲げるフォント(文字の形)の多くが共通してローマン体であることに気がついた。偶然なのか意図的になのか?調べてみると、その理由が判った。
第二次トランプ政権誕生後、ルビオ国務長官は国務省職員に対し、公式文書における標準フォントをこれまでのCalibri(カリブリ、日本語ならゴシック体のような文字の形)からTimes New Roman(タイムズ・ニュー・ローマン、日本語なら明朝体のような文字の形)に変更するよう命じた。さらに、ルビオ氏が署名したメモのタイトルは「Return to Tradition(伝統への回帰)」。その中で、Times New Romanへの回帰理由を次のように述べている。
曰く、「ローマン体はじめ、セリフ体(Serif)のフォントは、裁判所や立法府、連邦政府機関において標準であり続けている。これらは書面による記録の恒久性と権威が最優先される場所である。(中略)この標準に合わせることで、公式な政府文書に期待される品位、一貫性、形式性を反映させることができる」と。
たしかにTimes New Romanは美しいが、文字の端の飾り(セリフ)があるため、特に読字障害や視覚障害のある人々にとっては読みづらい。そのため、世界的に使用されている「Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)」などのガイドラインでは、羽や足に似た紛らわしい要素(セリフ)の無いサンセリフ体の使用を推奨している。Calibriのようなサンセリフ(セリフのない)体は、スマートフォンやノートPCなどの小さな画面でも読みやすく、長時間文書を見ても目が疲れにくい。また、Calibriは多くのオフィスワーカーにとって馴染み深いフォントでもある。
トランプ政権にとって、モダンで親しみやすいCalibriは、国家外交を担う国務省の「顔」として不適切であり、伝統的なセリフ体こそが米国の威信を示すのにふさわしいという判断である。前政権下で推進された「多様性・公平性・包摂(DEI)」プログラムに対する明確で徹底した否定である。
過去にも、こうした事例があったことを思い出した。ナチスは18世紀末の「新古典主義」様式(音楽・絵画・文学等)を復活させ、それを公認の表現様式とした。そして公式文書に使用する文字も、フラクトゥール(Fraktur)という中世からの伝統的なセリフ書体を「真のドイツ文字」と位置づけ使っていた。
視覚的な「権威の復権」を象徴的(デザインや映像によるストーリー)な政治アクションとして提示することが、どれほど効果的で効能を生むかということを計算している。つまり、彼らは「何を」表現するかと同じくらい「どう」表現するかが重要であることを熟知している。だからこそ、狡猾で手強い奴らが相手であることを怯えずに直視しなければならない。