僕はいまだ現役で仕事をしている。肩書は社長職だが、吹けば飛ぶような規模の長の役割は、何でも屋であり小間使いのようなものである。得意先との月例ミーティング、企画書やメルマガの作成、さらに社員の厚生年金手続きや経費の小口打込みなど、経理の細々とした業務までもが守備範囲だ。やれやれ・・・。妻には時々愚痴も漏らすが、こういした事柄が嫌かと言えば、(開き直るわけではないが)すきこのんでやっている。もちろん、好きなだけはなく、特段の資産があるわけではなし、仕事をしなければ生業が立たなくなるからだ。
もうじき後期高齢者にならんとしているにもかかわらず、仕事を続けている者など、少数かと思っていたが周囲を見てみると、僕と近い年齢で働いているシニアが多いことに気がついた。かつての仕事仲間だったMさんは清掃のアルバイトをしているし、学生時代からの友人Sくんはマンションの管理人をしている。その他にも趣味の仲間のYさんもコンビニで働いている。
つい数年前、雑誌やTVのワイドショーでもてはやされた、高齢者が、退職金と年金で自由に暮らす「セミリタイヤ」や、投資での収入で早期退職し生活する「FIRE」といった幸せな老後など、いまやおとぎ話である。
かつて、老後の余生をのんびりと過ごすことができたのは、物価安のデフレとシニアの数がまだまだ少ないから可能だっただけのことである。こうして見ると、経済成長なき失われた30年もあながち悪くはなかったのでは、とさえ思えてくる。
数週間前、仕事関係の仲間から得た大手求人サイトの検索キーワード情報である。なんとも衝撃的なTOP10ランキングだったので記載する。
1位/シニア 2位/正社員 3位/年齢不問 4位/50代 5位/70代以上 シニア 6位/65歳以上 シニア 7位/内職 8位/65歳以上 年齢不問 9位/シニア 女性歓迎 10位/自宅 内職
シニアというワードが目につく、このランキングから読み取れることは、高齢者が必死になって仕事を探しているということだ。原因はシニア人口が急増していることや、長引く物価高で年金だけでは生活が苦しいという厳しい現実がうかがえる。
高市首相のよる積極財政(アベノミクスでリフレ派の実験を10年もやった検証がいまだなされていない状態で)を実施しようとしている。更にこのままインフレが続けば、ますます物価が高騰することは火を見るよりも明らかである。そして、高齢者が大変なだけではなく、現役世代にとっても、対岸の火事では済まされなくなる。先が見通せない状況で経済成長が鈍化している日本において、このまま人件費を上げざるを得ないとすれば、とりあえず20代30代の若者確保のための給与を上げることになるだろう。加えてAIの導入も積極的に行なわれ、結果として50代60代はもちろん、40代の給与は下げるしかなく、希望退職や役職定年を迫る企業が増えると予想する。
つまり、少し先の未来の求人検索キーワードランキングには「50代」「40代」が上位に入ってくる可能性は十分にあるのではないか。なかなか死ねない60代以上の高齢者と、40代50代の中年層、そして外国人労働者での仕事の奪い合いが起こるやもしれない。まさしく、労働市場における危機はすぐそこまで迫ってきている。