これは先般ある企業2社のトップの対談での話です。
曰く、得意先では、91年のバブル期までは省力化と設備増強を考えて設備を増やす傾向にあったが、しかし、バブルが弾けて設備機器をいかに安く入手するかが、課題となり、さらに2000年に入ってからは、ハードについてはもとより、それらの維持費を含めたコストを抑える方向に、そして、いまはビジネス全体のコストを低減することが大きなニーズとなっているという。
そこでこの会社は、こうしたきびしいニーズに応えるべく、顧客企業においてのトータルな活動コストを下げることを主な目的として、新たなチームを結成したのです。
このチームの仕事は、顧客の仕事を分析し、どうすれば機器にまつわる顧客での運営コストを下げることができるか、に知恵を絞り提案することです。その結果、面白い現象が出てきたのです。つまり相手の視点に立つと、どうも自社が提供してきた機器が過剰ではないか、場合によっては購入を控えて貰った方がよいのではないか、と言う売り手会社の思いとは裏腹な結果を提案せざるを得ないケースも出てきたのです。にもかかわらず、同社スタッフは、それを敢えて提案しているというのです。当然、相手の顧客は「売り込まないばかりか、買い控えを提案するなんて!?」とこの売らないセールスアプローチに驚かれる。が、この戦略は大成功で、この「売らない」販売は顧客企業で他社を侵食し、いま着々とシェアを伸ばしているそうです。
これは生産財のマーケティングですから、消費財のそれにはあてはめにくいというご指摘もあるかもしれません。しかし、いま普通の家庭であれば、モノ余りで、買うもの、欲しいものを探すのに苦労するのが実状で、これがモノの売れない原因とも云われています。しかし、生活は生き物ですから、変化し、その変化への認識があればこそ、モノが生活に取り込まれるチャンスにもなることは自明の理です。
そして、モノを売り込まれるだけでは、いまひとつ生活者の共感を得られないことも皆さん先刻ご承知のことです。
2000年になって3年目、どうやら暮らしのベクトルは従来とはまったく違う方向を指しはじめてきているようです。豊かさも、高価なもの、たくさんの所有で実感する時代は去りつつあります。
こうした動きを後押してもっとはっきりしたものするには、どうするか、おそらく生活者個々に真にフィットした暮らしのグランドデザインを描き提案することでしょう。そう考えると、この「売らない戦略」はヒントかもしれません。売れない時代にバカなと言われるかもしれませんが、…いかがでしょうか?
いざや寝ん、元日はまた翌のこと…蕪村
よいお年を