第111号『プラシーボ』

数年前、親知らずを抜歯した経験がある。
2,3時間もすると麻酔がきれ、猛烈な痛みに襲われた。
抜歯したその箇所がドクン、ドクンと脈打ち、まるで心臓を移植したかのように感じた。
その夜は処方された鎮痛剤を飲み、なんとか痛みを抑え、朝を向かえることができた。

親知らずを抜歯した患者を対象にした実験が1970年代初頭、UCLA(米国カリフォルニア州立大学ロスアンゼルス校)の麻酔生理学研究室で行われた。

実験内容は、患者の半数に鎮痛剤のモルヒネが投与された。
そして、残りの半数にはモルヒネと偽り、形状、色、味などまったく同様な偽薬を与えた。

その結果は、偽薬を投与された6割以上の患者も、程度の差はあるものの痛みが緩和された。

なぜか?

「与えられた薬が、強力な鎮痛効果のあるモルヒネだと信じている人の脳内にはモルヒネに非常によく似た化学物質が分泌され、その物質が痛みを止めている」ということが解った。
さらに、痛くなくなったと感じた人の脳ではエンケファーリン、ベータエンドルフィン、ジュノルフィンなど、モルヒネの150倍から200倍の麻酔効果のある物質が作られていることも、その後の研究で解明された。

この現象を「プラシーボ効果」という。

プラシーボ効果の基本原理は「思い込むこと」である。
つまり、思い込みの度合いが強ければ強いほど、それは信じることへと変容する。
そうして、信じているものが前向きなことや有益なものであれば、その人にとって好ましい状況をもたらし、反対に悲観的なことや不利益なものであれば、好ましくない状況に至る。
なぜなら信じているものは、自律神経系を介して、いつしか現実のものとなるからだという。

体重が少し増えた。
買ったばかりの洋服にパスタのケチャップを飛ばした。
仕事が思い通りに進まない。

こんな些細なことが重なると、ときどきネガティブな自分が現れる。
大概、決まって自分に自信を持てなくなっている自分がいる。
だからそんなときは、自分自身に言い聞かせることにしている。

1. ポジティブなことばを使う。

人は使うことばによって規定される。
だから、ネガティブなことばは言わない、聞かない、見ない。

2. 他人のことばに翻弄されない。

大概、そのことばは私のことではなく、言っているその人自身のことである場合が多い。

3. 他人は自分のことを●●だと思っているのだろうと妄想しない。

もし、どうしても気になるのなら直接その人に聞いてみればいい。
自分が思うほど、他人のことなど関心を持っていないものだ。

4. 最善を尽くす。

さまざまな場面でベストを尽くして行動し、そして、結果を気にせず、自分を卑下しない。

もし、仮に、思い通りの結果が得られなかったとしても、それはたまたま、まだその機が熟していなかったに過ぎないのであり、自分のせいではない。

自分の人生は自分が考えた以上にも以下にもならない。
自分が信じた通りにしかならない。
だからこそ、努力する価値がある。

とりあえず自分自身に思い込ませておこう。
「やれば、できる。」と。

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