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2008年06月 アーカイブ

2008年06月05日

第287号『神は細部に宿る』

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【数字のある壁】

ここ数週間、本屋さんもCDショップも美術館も、映画館にも行っていない。
行きたいのに行けない。
ムズムズしていた。

雨の火曜日、立て続けにふたつ打ち合わせがキャンセルになった。
突然、ポッカリと時間が空いた。
スッと身体が動いた。

まずはCDショップに行き、手当たり次第に試聴する。
「THE BEST OF RADIOHEAD VIDEO COLLECTION」と「相対性理論のシフォン主義」を購入。
続いて、本屋へ足を向ける。
探していた、岡本一郎著「グーグルに勝つ広告モデル」をあっさりと見つける。
次の打ち合わせ時間まで、まだ十分時間がある。

昼から映画。
高校生の頃、時々授業をサボって映画を観た。
少しの罪悪感と自由を手にしたような高揚感。

本屋と同じエリアにあるシネコンを覗く。
気になっていた映画、石井克人監督作品『山のあなた』を観る。
この『山のあなた』は70年前に作られた清水宏監督作品『按摩と女』を再現したものである。
既に存在するオリジナルを超えるのではなく、超えないように再現すること。
実は再現の方が、リメイクやリイメージより遥かに難易度の高い作業ではないか。

草薙剛、加瀬亮、三浦友和、堤真一、渡辺えり子、松金よね子らの確かな役者陣と、手練な美術、音響、照明、撮影スタッフ、そして細部に行き届いた演出。
すべにおいて丁寧な作りである。

映画『山のあなた』に日本映画とは何か。の、答えを見たような気がした。

2008年06月12日

第288号『いまを生きる』

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【隅田川有情】

秋葉原で起きた無差別の殺意。
自動車工場に働く地方出身者の手によって7名もの命が奪われ、10名が傷を負った。
ワーキングプアー、負け組、そして、孤独と怒りの増幅。
あまりに遣る瀬ない事件が続く。

実は、市場経済の行き過ぎが生んだ歪みは、負け組だけではなく、経済的には勝ち組と呼ばれる人たちにも及んでいるという。
生活ぶりをよく眺めれば、けっして幸せではない。
金はあれども、仕事に追われ、地位の保持に唯唯諾々とし彼らもまた、孤独と不安の中に居る。

漠然とした怒りと不安が日本の社会全体を覆い、勝ち組も負け組も、そのどちらもが幸せとはいえない時代を生きている。
つまり、経済格差を縮めるだけではこの問題は解決には至らないということではないか。
さらにいえば、社会学的な解明も、治安維持のための新たな警察権力の再配備でも、おそらく解決はしないであろう。

アトリエのある浜町の対岸、隅田川を挟んでかつて芭蕉が居をかまえていた庵跡がある。
時々、散歩をしながらその前を通る。
ふと、江戸の町に住んでいた人々の簡素な住まいと、シンプルだが豊饒なことばの世界がなぜ生まれたのか、と思いを馳せる。
いま、東京の街に生きる私たちより、遥かに余裕と好奇心と感情豊かに暮らしていたのではなか。

では、いまを生きる私たちはどうすれば良いのか。
それは、教育問題や経済問題といった仕組みとしての「大きな物語」を解き明かすのではなく、ひとり一人が自分の遊び、学び、結び、粋を楽しむ「小さな物語」として、自らの生活を取り戻すことから始めることではないか。

2008年06月20日

第289号『想いは叶う』

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【光のあたる壁面】

2001年5月12日、13日の二日間にわたり自動車メーカー、マツダ株式会社広報研修会に講師として参加した。
この研修会は外資系の広報専門会社によって運営され、講師陣も大手新聞社編集委員、外資系生命保険会社コミュケーション担当、経済専門出版社編集局長と、蒼々たる顔ぶれであった。
その中に、なぜか珍客のように私も紛れ込んでいた。
約1時間「戦略的ウェブ構築」というテーマで、講義をした。

この年、企業が商品のファンサイト作るという考え方をキリンシーグラム社に提案し、ウイスキー、ボストンクラブのファンサイト「極楽クラブ」を構築した。
結果、17万人ものユニークユーザーを集めることができた。
2001年の日経ネットビジネス6月号でも、無印良品のサイトとこの「極楽クラブ」が企業サイトの成功事例として取り上げられた。
こうした事例も、この研修会で話した。
研修会終了後もサイト構築について、マツダの広報ご担当の方々とお話することができた。
皆、熱がある。
なんとかマツダの良さを知らせたいとの想いが伝わってきた。
この経験を通して、マツダの方々と仕事をしてみたいと思った。

相手は、日本を代表する自動車メーカー。
講師として参加はしたものの、こちらは無名の制作会社。
さて、どんな方法でマツダにアプローチしたら良いかと思案した。
まずは、相手を知ることから始める。
サイトを眺め、触り、そして競合と比べてみた。
そして、生まれたのが「企業ファンサイト分析」である。
このサイト分析を当時のご担当者にお送りし、見ていただいた。
様々なご意見をいただき、翌年もサイト分析をお送りした。

そして、2002年の秋、コンペに参加してみませんかと、ご依頼をいただいた。
喜び勇んでの初挑戦、しかし残念ながら敗れた。
2003年9月、再びコンペへの参加依頼をいただいた。
これなら勝てる、と思えるまで考えた。
結果、幸運にも採用となった。
想いは叶う。

2001年6月から始め、今年で8回目となる自動車メーカーの「企業ファンサイト分析」を本日掲載した。
8年間に渉る自動車産業のウェブサイトの変化が見て取れるであろう。
それは、日本のウェブサイトの変化と推移でもある。
ご高覧いただきたい。

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2008年06月26日

第290号『映画「休暇」を観た』

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【テンション】

門井肇監督作品、映画「休暇」を観た。
原作は吉村昭の短編小説集「蛍」のなかに収められている同題の小品だ。

死刑囚を収容する留置所に勤務する寡黙なベテラン刑務官、平井(小林薫)。
そんな平井がシングルマザーの美香(大塚寧々)と結婚することになった。
なかなか打ち解けない連れ子との関係を築けないまま挙式を目前に控えたある日、死刑囚・金田(西島秀俊)の執行命令が下る。
執行の際、支え役というまさしく絞首された囚人の足を支え持つ役目を務めれば1週間の休暇が与えれる。
平井は新しい家族と新婚旅行にでかけるために、誰もが嫌悪する支え役に名乗りをあげる。
希望を奪われた死刑囚の抱える闇と、彼の未来を奪うことを使命とする刑務官たちの苦悩。
死刑執行に至る日々と、新しい家族として親子3人のささやかな旅行を通して、それぞれの哀しみと希望が浮き彫りにされていく。

パンフレットのなかで「死刑と向き合う刑務官たち」を書いた、元刑務官の坂本敏夫氏のことばが気になった。
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「人は皆変われる!」これは、真摯な態度で死刑囚を処遇した刑務官なら実感を伴って感じることだ。
死刑を語る上での本当の意味の『刑務官』は死刑確定囚と長い年月同じ時間を共有し、時期がくれば処刑の任に当たらざるを得ない、極めて厳しい職務を遂行する刑務官のことであると思う。
そこには友情も生まれ、父と子のような家族的な感情も生まれる。
心を開き、心の底から償いの思いを持つようになり、生まれ変わった死刑確定囚は殺したくない。
「生きて償わせたい!」と、叫びたい思いにかられながらも、彼の首に縄を掛け、死刑台の床を落とすボタンを押す刑務官がいるのも、まぎれもない事実なのだ。
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死刑囚は何年もの間、執行されるその日を待つ。
つまり、死刑囚は日々、死の訪れを待ち続けているのだ。

この国は、生身の人間を法と国家の名をもって殺す死刑という制度を持つ。
そして、私たちはその実態も刑を執行される人間の尊厳にも、あまりに無知で無頓着なままだ。

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