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2018年06月07日第779号『映画「レディ・バード」を観た』

【レディ・バードのポスター】

高校時代、こんな狭っ苦しく重たい街から一日でもはやく、東京へ出て
行きたいと思っていた。
ところが、上京し、1年も経たないうちに、弘前城の堀に敷き詰められる
桜の花筏、夏のねぷたの太鼓とお囃子の音、秋の岩木山とりんごの味覚、
雪に覆われた一面白い町並み、そして母の手料理の数々が幾度となく脳裏
に思い浮かんだ。
ホームシックだったんだろう。

あの時の、青い気分をすくい取ってくれたような映画を観た。

映画『レディ・バード』グレタ・ガーウィグ監督・脚本作品。
1983年、カリフォルニア州サクラメント生まれ。
本作で初の(共同監督の経験はあるが、単独での)監督を務めた。
デビュー作ではあるが、見事にゴールデン・グローブ賞作品賞を受賞し、
第90回アカデミー賞では作品賞や監督賞など5部門に選出された。
女性監督としてノミネートされたのは、実に8年ぶりのことであり、史上
5度目の快挙でもある。

『レディ・バード』の舞台は2002年のカリフォルニア州サクラメント。
カリフォルニア州の中にあって、ロスアンゼルスやサンフランシスコと
は違い、サクラメントは農業の盛んな地方都市である。

物語は主人公レディ・バードがサクラメントでのハイスクールでの日常
(大学進学、初めての失恋やセックス、あまり豊かではない家庭での母
との諍いなど)から、新たな地で学生生活を始めるまでを描いている。
こうした通過儀礼的な出来事が陳腐にならず、とても瑞々しく描かれて
いた。
まさに、監督自身の青春の光と影を描いた半自伝的な作品でもある。

映画を観て、ふと思い出した。
高校・大学と、60年代後半から70年代初頭は、今から考えても面白い
時代だった。
例えば、ローリング・ストーンズがビートルズの後を追いかけ、追い越
すように登場してきた。
例えば、芝居である。
渋谷と恵比寿の間、明治通沿いにあった天井桟敷を立ち上げた寺山修司
と、新宿花園神社境内で、赤いテントで芝居をする状況劇場の唐十郎が
いた。
さらに、平凡パンチの紙面では横尾忠則のイラストが躍動していた。
市ヶ谷駐屯地のバルコニーで、楯の会の制服を着た三島由紀夫が檄を飛
ばしていた。
スクリーンでは、日活ロマンポルノの傑作『㊙色情めす市場』(田中登
監督作品)の主演女優、芹明香が釜崎で迫真の演技をしていた。
街では、学生たちが石と火炎瓶を投げ、国家権力と対峙していた。

無軌道で、そして真っ赤に燃え盛るエネルギーに突き動かされていた。
ひょっとしたら仕組みや気分が変わるかもしれない。
そんな予兆に満ちていた。
だが、過ぎ去ってみれば、吹雪いた後の静まり返った雪原が一面に広が
っていた。

劇場から出ると、今は父も母もいない街(ふるさと)に、久々に帰りた
いと思った。

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執筆者

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川村 隆一

ファンサイト有限会社
代表取締役

1952年1月生まれ。
日本大学芸術学部卒業。
日活株式会社、日本工学院専門学校映像デザイン美術科(現)グラフィックデザイン科専任教師、株式会社Cカンパニー、株式会社ナガセ等を経て、ファンサイト有限会社を設立。
資生堂・イオングループ・キリンビール・マツダ等の企業コミュニケーション/広報活動のためのディレクションとプランニングを手がけてきた。

【書籍】「企業ファンサイト入門」日刊工業新聞社刊 2006年
【賞】経団連海外広報センター最優秀デザイン賞(横浜銀行アニュアルレポート)

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